避妊去勢手術について
避妊去勢手術は、従来の考えとして野良猫ちゃんや、飼い猫ちゃんでも外に行く猫ちゃん達に対して、望まれない妊娠による不幸な動物を増やさないために行われていた手術です。
しかし最近では、避妊去勢手術は、従来の「望まれない妊娠を防ぐ」というよりも、将来的に起こる可能性のある性ホルモンに関連した病気を予防したり、発情に伴うマーキングやスプレー行動、攻撃性およびマウンティングなどの性行動などの問題行動の軽減を目的とするために手術が行われています。
避妊去勢手術は全身麻酔を必要とします。雄では精巣(睾丸)を摘出する去勢手術を、雌では卵巣子宮(または卵巣のみ)を摘出する避妊手術をします。
人間も同じですが、手術を行うことは少なからず、体に負担がかかります。
メリットもありますが、その反面デメリットもあります。
そのことを十分理解して頂いた上で、手術を検討してみましょう。
避妊去勢手術のメリット
☆雌
子宮蓄膿症
中高齢の犬で発症が見られます。
子宮に細菌が感染することで子宮内に膿がたまり、治療が遅れると敗血症などによって死に至る怖い病気です。
避妊手術をすれば、予防できる病気です。
乳腺腫瘍
中高齢の犬猫に発生する腫瘍です。
乳腺腫瘍は乳腺にできる腫瘍のことで、犬では約50%が、猫では約80%が悪性(癌)といわれていています。
乳腺腫瘍の発生率を検査したところ、
初回発情前の卵巣摘出を実施した群では、その発生は0.5%
初回発情後の卵巣摘出を実施した群では、その発生率は8%
2回以上発情を発現した後の卵巣摘出を実施した群では、26% という結果が出ています。(Schneider,R. et al. J.Natl.Cancer Inst. 43,1249-1261,1969)
乳腺腫瘍に関しましては、発情が来る前に避妊手術をすることで発生率が低下することがわかりました。
☆雄
前立腺肥大症
中高齢の犬で発生する病気です。
膀胱の後にある前立腺が大きくなることで周囲を圧迫し、血便や排便障害などの症状を引き起こします。この病気は精巣から分泌される性ホルモンが発症に関与していると言われています。去勢手術を行うことでこの病気の発症を予防する事ができます。
会陰ヘルニア
中年齢以降の犬に比較的よくみられます。
直腸を支える筋肉群が弱くなり、腸管や膀胱などが会陰部(肛門のまわり)の皮下に脱出する病気です。詳細な原因は不明といわれていますが、精巣から分泌される性ホルモンが関与していると言われています。去勢手術によって、その発症を抑制できると考えられています。
肛門周囲腺腫
高齢の犬でよくみられる腫瘍です。
肛門周囲に発生することが多いです。良性のものは、精巣から分泌される性ホルモンが関与していると言われています。去勢によってその発育を抑えることができ、再発の防止にもなると言われています。去勢していても発生する場合は悪性(癌)の疑いがあります。
避妊去勢手術のデメリット
麻酔のリスク
避妊・去勢手術は全身麻酔を必要とします。
麻酔に対してのリスクは0%とはいえません。
麻酔薬に対して、特異体質(アレルギー)を持っている可能性もあり得るため 全身麻酔に関しては短時間であっても十分に慎重に行う必要があります。
肥満
避妊去勢手術の後に肥満傾向になる犬や猫が多くみられます。
手術後に基礎代謝率が減少することによりカロリー要求が減ります。
予防としては一定量の食事を規則正しく与え、適度な運動をすることです。
また、避妊去勢した犬猫専用のフードなどもあり、手術後の肥満防止を図ることができます。
尿失禁
避妊去勢手術後の副作用として尿失禁(尿漏れ)が問題となります。
尿失禁とは、尿道の筋肉が緩むことで膀胱や尿道に炎症などの異常がないにもかかわらず、リラックス時や過度の興奮時に尿を漏らしたりするものをいいます。これらは性ホルモンが括約筋の収縮などに関与していると考えられ、この性ホルモンの分泌がなくなることによって、この括約筋が緩み尿失禁が起こると考えられていますが、直接的な関係は証明されていません。
縫合糸の副反応
避妊去勢手術に関わらず血管や組織を結ぶ縫合糸は、昔はよく絹糸が使用されていました。ミニチュアダックスフンドなどでは、この絹糸による副反応(異物反応)が過剰に起こり、縫合糸周囲に肉芽腫ができたり、皮下組織にトンネルができて排液が生じることがあります。これは免疫が関与していると考えられていますが、その病因についてはわかっておりません。近年ではこの縫合糸との異常反応を避けるために、通常縫合には絹糸ではなく、異物反応が起こりにくい特別な吸収糸を使用しています。
その他の問題
大型犬の骨肉腫などの悪性腫瘍や甲状腺機能低下症などの疾患は、卵巣または精巣を摘出した動物では摘出していない動物よりもその発症率が増加したとの報告があります。ただ、これらの疾病との因果関係はまだ十分に証明されていません。
また去勢をすると尿道が閉塞しやすいといわれていますが、ある研究者の報告では去勢後も尿路の大きさは変わらないことが報告されています。